
"コロナ後"の建設業① ~”バラバラ”業績を読み解く(2020年10月版)
「コロナの影響は無く、忙しい」
「大工だけど、仕事が無い」
「工務店だが、集客に苦戦している」
「取引先の倒産が増えているらしいのに、うちは受注が増えてる」
様々な声が弊社が運営する「クラフトバンク」には届いています。
建設業の経営者の方、コロナの建設業界への影響、今後の見通しが気になる方向けに、今月から様々なデータをもとに、この"バラバラ"な状況を検証するシリーズを連載します。
本記事は今年4月2日に公開し、現在でも多くの方にお読みいただいている記事「臨時号② 新型コロナが変える建設業の今後:直近動向と"コロナ後"の考察」の10月更新版です。
電気、足場、塗装、大工など、工種別の動向などをまとめた、11月の記事はこちらです ↓
"コロナ後の建設業"② ~電気は忙しい、足場は厳しい?
より具体的な対策をまとめた12月の記事はこちらです ↓
”コロナ後の建設業”③ ~”バラバラ”時代の生き残り策
2021年建設業界動向予測はこちらです ↓
3分で読める 2021年 建設業界 動向予測
1:全体では減っているが、実態は業種で"バラバラ"
全体ではどれくらい受注は減っているのでしょうか?
国交省公表の今年4~8月の建設業全体の受注(公共・土木含む)の対前年同期比はマイナス6.2%(2020年4~8月の5ヶ月累計を2019年同期間累計と比較)でした。
次に、建設投資全体の約7割を占める民間建築領域(事務所、倉庫、住宅等)の推移を見てみます。
非住宅は倉庫が対前年で伸び、事務所はやや悪化、店舗、工場は大きく悪化となっています。
新築住宅は全体で悪化していますが、特に持家の悪化が目立ちます。
リフォームについては4~6月のデータしか未だありませんが、前年同期比マイナス2割となっています。
非住宅、住宅、リフォームとも「プラス、若干マイナス、大きくマイナス」が混在した結果、全体で十数%のマイナスになっているのが実態です。
さらに細かく、都道府県別、部位別に見ていくと、伸びている領域があります。全国的に悪化しているわけではなく、プラスの地域、マイナスの地域が混在し、全体で減っています。(千葉県などの大都市隣接県、空調リフォーム等)
当総研ではより細かく、発注者属性、都道府県単位、リフォーム部位(外装、空調設備)データを把握していますので、詳細について関心のある方はSNS経由でお問い合わせいただければ幸いです。(クラフトバンク総研のtwitter)
2:会社ごとの業績も"バラバラ"
個別の会社の業績も"バラバラ"です。
例として、戸建住宅大手上場企業(売上業界トップ4社)の今年8月までの受注推移を見てみます。
緊急事態宣言後の4~5月に大きく受注が減っていますが、旭化成ホームズが対前年同月比▲67%と大きく落ち込んだのに対し、積水ハウスは▲19%に留まっています。その後、8月の受注回復スピードも各社"バラバラ"です。
月次受注速報が開示されていないのと、受注ではなく販売数ベースの開示なので図には反映していませんが、同じく業界上位の飯田グループホールディングスの第1四半期販売棟数は対前年同期比プラス8.7%と、プラスの企業もあります。
他の建設関連の上場企業でも対前年比プラス、通期業績予想で大きく影響は無いとしている企業は複数あります。(ヒノキヤグループ、ポラスグループ、モノタロウ、シンメンテホールディングス等)
3:なんで会社ごとに"バラバラ"?
先ほどのグラフで例として挙げた大手企業はいずれも、新築住宅で全国展開している企業なので、地域の影響は少ないと考えられます。すると、"バラバラ"な結果になったのはなぜでしょうか?
各社の決算報告を細かく読むと、「住宅展示場」についてのコメントがありました。
住宅展示場来場組数は今年4~5月前年同月比マイナス67~69%と激減しています。展示場経由の受注が個社で異なっている点が個社の受注の差に繋がっていると考えられます。(もちろん、顧客層・価格帯など、他にも要因はあるので、要因の一つです)
住宅展示場関連の最新記事
戸建て検討者の展示場訪問率・イベント参加率が過去最低に
訪問数は2018年2.6社から2020年は2.2社に
4:"バラバラ"な中で、工事会社はどう生き残る?
この"バラバラ"な状況の中で、「下請」として工事を請けることが多い工事会社は、「どこの元請から仕事を請けているか」で大きく業績が変わると考えられます。
また、元請の仕事量は、先述のように「倉庫等の伸びている領域や地域の仕事をしている」「展示場経由の受注量」等の要因で増減すると考えられます。伸びている会社は当然ながら工事会社を探しています。(実際その問い合わせが弊社に来ています)
また、以下の報道のように、今年の年間廃業数を業種別に見ると、1位は特にコロナの影響を受けている旅行や飲食などのサービス業ですが、建設業はまさかの廃業数2位でした。既存協力会社の減少で、発注先に困っている元請も出始めていると考えられます。
工事会社の中には、元請、協力会社とも取引会社数が少なく、新聞もあまり読まないので、「自分たちの周囲の会話だけで、世の中全体で仕事が無いと思い込んでしまう」会社があります。(仮に儲かっていても中々それを外には言いませんが…)
一定規模の建設業、建材メーカー、卸業者は上場企業の決算や業界紙の記事に目を通して情報収集しています。その大半は、今はネットで無料で見れます。以前の記事で書いた通り、多くの会社で借入が増えている以上、返済分、これまで以上の売上を確保する必要があります。
どれだけ速く伸びている領域、元請にシフトできるか、仕事量を確保できない元請に頼らない受注確保手段が勝負の分かれ目です。
次回は、クラフトバンクのデータから「設備は忙しいけど、足場は厳しい」等、工種別のコロナ後の動向を分析し、より具体的に工事会社の生き残り策を考えます。
【関連記事】
新型コロナが変える建設業の働き方 ~対面と紙とテレワーク(4/14時点)
図解 5分で分かるコロナ禍の工務店・工事会社の売上計画 3つのポイント
この記事を書いた人:髙木 健次(クラフトバンク総研)
【SNS、他メディア等】
本記事は新建新聞社運営メディア「チカラボ」と連携しています
詳しく話を聞きたいという方についてはSNS経由でご相談を承っております